

ここ数年、コーヒーの価格をめぐる話題が注目を集めていますが、その背景には見過ごせないストーリーがあります。
直近18ヶ月でコーヒーの価格は数十年ぶりの高水準に達し、市場では大きな価格変動が常態化しています。年初と比べると、そこで語られる話題には変化も見られますが、コーヒー価格を取り巻く根本的な課題は依然として残ったままです。
今後に期待できる要素もあるものの、この18ヶ月で起きた変化はコーヒーのコスト構造そのものを大きく変えるものでした。その影響が市場全体に浸透し、落ち着きを取り戻すまでには、まだ時間がかかると考えられています。
コーヒー市場を取り巻く現状
ここ1〜2年、コーヒー市場はかつてないほど不安定な状況が続いています。2024年後半には、アラビカコーヒーの国際指標価格であるCプライスが1ポンドあたり344セントに達し、約50年ぶりに過去最高値を更新しました。しかし、その後も価格上昇は続き、2025年2月には1ポンドあたり440セントを超え、再び過去最高値を更新します。これは多くの業界関係者にとっても想定を超える水準でした。この記録的な価格上昇は、複数の要因が重なった結果と考えられており、特に大きな影響を与えたのは、世界的な供給不足が続いたことに加え、コーヒー産業を支えるブラジルとベトナムの両国で干ばつが発生したことです。
2025年11月時点でも、Cプライスは1ポンドあたり412セントを上回り、2026年も350セント台後半という高い水準でスタートしました。ブラジルの2026クロップには明るい見通しが出ているにもかかわらず、2月以降のCプライスは280〜320セントのレンジで大きく変動を続けています。
2024年から2025年にかけて記録した高値は、現在は落ち着きを見せてはいますが、この価格上昇は業界全体が直面してきたコスト圧力の大きさを物語っています。多くの企業にとって、近年の価格改定は一時的な価格高騰のためではなく、長期的なコスト上昇に対応するために実施したものでした。
Cマーケットだけでは見えないコーヒー価格の現実
Cプライスはコーヒー価格を構成する要素のひとつに過ぎません。生産地から消費地までのサプライチェーン全体では、依然として高水準な費用や予測が難しいコストが数多く存在しています。
- 賃金、税金、各地域の法令遵守に関わる費用を含む人件費や法定コスト
- 世界的な供給状況や地政学的な情勢の影響を大きく受けるエネルギー費、燃料費、保険料
- 2025年前半には落ち着きを見せたものの、年末にかけて再び上昇した輸送・物流費用
- ここ数か月の燃料価格上昇を主な要因として、依然として歴史的な水準を上回る国内配送費用
- 全般的なインフレによって押し上げられている乳製品、食品、包装資材、消耗品などのカフェの運営コスト
いま、生産地で起きていること
生産地では、過去数年にわたる供給不足からの回復が進む一方で、依然として天候要因による不確実性が続いています。
- 霜害、干ばつ、洪水など、生産地で発生した異常気象の影響により、2021/22年と2022/23年には世界的供給不足に
- 2023/24年の小幅な供給余剰も、過去数年にわたる供給不足を補うには限定的な効果にとどまる
- 2024/25年は需給がおおむね均衡し、顕著な供給不足や供給余剰は見られず
- 2026年は厳しい幕開けとなり、世界第二位のアラビカコーヒー生産国であるコロンビアでは過度な降雨が続く。これにより、シーズン初期の収穫量が伸び悩んでいるほか、収穫の遅れも発生し、供給面への影響が懸念される
世界の供給見通しにとって前向きな材料として、2026年のブラジルの収穫は豊作となる見込みで、一部の商社では生産量が約7,000万袋に達するとの予測も出ています。実際のところは、収穫が本格化してから明らかになるでしょう。
市場の需給状況を示す指標のひとつである認証在庫は、最新の報告では約50万袋にとどまっています。一般的に100〜200万袋程度がより安定した水準と考えられており、現時点で在庫が低水準にとどまっていることから、市場は依然として供給余力が限られた状態にあり、需給の逼迫感が続いています。
また、生産現場では、肥料・人件費・輸送費などの生産コストの上昇に加え、気候変動による天候の変動幅の拡大にも引き続き向き合う必要があり、生産者を取り巻く課題は多く残されたままです。過去数年の低価格環境により、多くの生産者は十分な投資ができない状況が続いていました。現在はようやく土壌改良や樹木の植え替え、設備投資、労働環境の改善などへの再投資が進みつつありますが、こうした取り組みが生産量の増加につながるまでには一定の時間が必要です。
これからの見通し
今後に向けては、明るい兆しも見え始めています。現地からの報告によると、2026年のブラジルでの収穫は好調となる見込みで、エチオピアやホンジュラスなどの生産国からも前向きな見通しが示されています。こうした状況が続けば、現在の供給逼迫は時間をかけて徐々に緩和されていく可能性もあるでしょう。
とはいえ、市場は依然としてさまざまな要因の影響を受けやすい状況にあり、特に以下の点には引き続き注意が必要です。
- 異常気象や自然災害の発生
- 輸送・物流網の混乱
- 燃料コストの上昇
- 世界情勢を取り巻く地政学的な不確実性
市場の変動は今後も続く可能性が高く、その頻度は年々増しているのが現状となります。
カフェが直面する課題
カフェ業界は競争が激しく変化の速い環境にあり、収益性を維持しながらコストを適切に管理していくことが常に求められています。
なお、市場によって状況は異なるものの、共通する傾向として以下の点が挙げられます。
- 消費者は以前よりも、原材料費や運営コストの上昇といった背景について理解を示す傾向が強まっている。
- 価格改定などの変更を行う際には、その背景や理由を丁寧に伝えることが消費者の理解につながる。
- 品質や安定性、そして店舗での体験価値は、引き続き消費者が店を選ぶ上で重要な判断基準となっている。
価格設定やコスト管理のあり方は、ビジネスモデルや利用する消費者層、地域ごとの特性によって異なります。それでも共通して重要なのは、事業の持続可能性を支えるために、決して目先の変化だけにとらわれることなく、長期的な視点で慎重な判断を行うことです。
持続可能な未来に向けて
コーヒー市場はこれまでも周期的な変動を繰り返してきました。ここ数年の状況は、その規模や期間の長さにおいて例外的ではあるものの、長期的に見れば変化のサイクルの一部といえます。私たちは、常にオープンな対話を重ね、長く続く関係性を築くことを大切にしています。それが、コーヒーに関わるすべての人にとって健全で持続可能な未来につながると信じているからです。
出典:
- ICE Coffee Futures historical pricing data.
- Drewry World Container Index / Freightos Baltic Index.
- International Coffee Organization / USDA Coffee: World Markets and Trade
- ICE Futures U.S. certified coffee stocks reports.
- USDA Coffee: World Markets and Trade / CONAB Brazil forecasts.


